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地球のある中小企業でメイ・カイロンが働いていた…のは、昨日までの話である。
メイは、上司である男に呼び止められた。
「メイ君、明日からこなくていいよ」
「…え?」
いつもの作り笑いのまま、メイは首を傾げて見せた。
「私、何か…?」
「君ね、黙って毎日茶を酌んでりゃいいんだよ。
アレもコレも人の仕事を奪ってまで、
出しゃばられちゃあ困るんだ」
能力に見合った仕事を回されないとは、なんと不幸な事か。
メイはいつもそう思い続けてきた。
だからこそ、自分で状況を変えようと動いてきた。
今クビを言い渡されたOL職の時も、その前の地球軍に所属していた時も。
しかし、すべてが裏目に出て空回り。
まったくもって「今回も」なのである。
男が下衆な笑いを浮かべた。
「女だったら、まだ働く場所があるだろ…」
男が言葉を終える瞬間、血しぶきを上げて轟沈した。
男の顎関節に、メイのハイキックがバッチリと決まったのである。
「こんな低能会社、こっちから願い下げよっっ!!」
…それも、昨日の話。今は自宅のベッドの中である。
「…何よ、何よ、何よ、何よッ!!」
髪をぐっしゃぐしゃにしながら、布団の中でマットを叩く。
ひとしきり暴れた後、涙が出た。
「こんなはずじゃないのに、何が悪いのよ…」
本当は、知っているのだ。
いくら知識を得ても、理論で自分を武装しても、
それは自分をよく見せよう、立派に見せようという虚栄心のためであること。
ポリシーがないから、せっかくの知識も力が伴わない。
それでも…、それでも自分の弱点をさらさないように、
また虚栄で自分を覆う。
心が休まるヒマも無い。
苦しいのに、どうしてもその悪循環を断ち切れないのだ。
「自分が輝ける場所って、本当にあるのかしら…」
それが、メイの心の奥底から出た本音だった。
自分をよく見せようとも、『どうやって』という事には
目を向けた事が無かったのだ。
「作り笑いも、もう沢山…」
顔を洗い、泣いてむくんだ目を冷やす。
何かを得たかった。
そして、それは衝動となってメイを突き動かした。
口紅を引いて、長い黒髪をまとめた。
必要なものだけをトランクに詰め込んで、ハイヒールを履く。
今が、動き出す時だ。少しずつでもいい、変わりたい。
家を飛び出し、空港へ向かった。
火星行きの切符を手にする。
なぜ、火星だったのか。
それは、やっぱり彼女にポリシーが無かったからであって、
単なる勢いで火星行きを選んだのだ。
だが、この先の彼女には『運命』が
ちゃんと相応く輝かしい場所を用意しているのである。
歩き始めた人にだけ、『運命』は希望の光を見せてくれるものなのだ。

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