第9回「修正資本主義の台頭」
BALLSはどんな子供達にも簡単に(時間さえあれば)最新の工学機器を量産し、材料さえあれば、ほとんどなんでも作ることが出来た。(え、恋人が欲しい?それはちょっと難しい。極初期型を除くBALLSには恋人という概念がない)
BALLSが地球表面で増え始め、世界中にいきわたった頃、最初に起きた災厄は失業である。
主として工場労働者を中心に、仕事を追われたのである。
続いてBALLSは農業生産に乗り出した。見渡す限りのアフリカの平原をBALLSが開拓し、緑地化し、麦畑にしてしまったのである。
その地下ではそれよりもっと大規模な、食糧培養工場が建造をはじめていた。こうした光景は、あちこちで見られた。
いわゆる先進国クラブの失業者はこの時点で80%を越えた。いまや政治と警察機構や防災、官僚、研究者、ゲームデザイナーと漫画家と小説家が主要な産業となった。
一次産業からも二次産業からも、知類は追い出されたのである。
働けなければ食べていけない。だがBALLSは人々の求めに応じて、食料の無料供給と配分を開始してしまった。こと、ここにいたって資本主義経済は完全に破綻した。
過去を懐かしむ社会学の先生が新原始共産制時代(新で原始とはどういうことだ)といい、口の悪い後世の歴史家が“長い夏休み”、“楽園時代”と呼び、圧倒的多くの者が単にBALLSの世紀と呼んだものが、資本主義崩壊の時代である。
この時代は、そう長く続かない。歴史で言えばわずか20年。(いや、夏休みが20年続けば大したもんではあるが、それはさておき)楽園のような時代は、すぐに過ぎ去り、変わって不機嫌な状況を現出することになる。
BALLSによってほぼ崩壊した資本主義が、形を変えて姿を現したのは2160年頃である。
これを、修正資本主義という。
確かに、製造費はほぼ0になった。だが、今度は相対的に原材料、研究開発の価値が高まり、それを中心にして貧富の差が出始めたのである。ここでの貧富とは、資源の多寡で表すことが出来る。金銭と資源は、果て無しなくイコールに近づいた。
ここで台頭したのは多くの領土や資源を持つ国家、個人、団体だった。ありていに言えば地主の時代である。
リソース(資源)主義体制とも呼ばれるその修正資本主義は、資源をめぐらせ、これを取り合う体制である。
財産とは個人で何tの資源をもっているかを示すものになった。
それまでの資本主義と異なって、修正資本主義体制での動きはにぶく、緩やかで、それでいて強固な形になった。景気や不景気は5年10年単位での話になる。
こういう状況は社会の停滞を生む。
この停滞に嫌気がさして、もたざる者の多くが宇宙移住に踏み切った。
地球でなければ資源は沢山あるのである。
こうして、それまでは宗教的意義とかフロンティアスピリットだかに頼って半ば趣味的に進んでいた移住は、にわかに財産(資源)の獲得という形で本格化した。
この中でも人気だったのは、火星である。
火星のほとんど唯一の資源である無尽蔵の水は、宇宙船の推進剤(燃料)として使うことから、将来有望と見られていた。

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