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マイケルは、希望号の前に立っていた。
夜明けの船に乗船して、真っ先に見たいのがRBだった。
いつか自分も、パイロットに。
ずっと、抱き続けてきたその思いを胸に、憧憬の眼差しで
白く、火星の海を切り裂く流星の様な機体を見上げる。
「ちょっと…、ちょっとだけ…」
胸をときめかせて、希望号のコクピットに腰掛けた。
目を閉じる。

海中を華麗に舞い、敵機を続けざまに撃墜する。
「いいぞ、…いいぞ、どんなもんだ!」
そんな風に、エースパイロットになったつもりで意識を遊ばせた。
「何やってるんだい、降りな!」
驚いて目を開けると、肌の浅黒い女が工具箱を抱えて立っていた。
マイケルが心細げに身体を小さくする。
「アタイは、これからそいつを見ないといけないんだ。どきな!」
マイケルが機体から降りると、仏頂面の女が整備を始めた。
寝起きのままなのだろう、寝グセが目立つ。
それでも、アイブロウと唇にたっぷりと乗せられたグロスが
女の意地を伺わせた。
マイケルが一度唇をかんで、頭を下げる。
「ごめんなさい!!もう勝手にRBには触らないから、ごめんなさい!!」
手を休めずに、女はマイケルの方を向いた。
「アンタ、今日来た新入りだろ?他の機体なら、触ってもいいよ。
RBは扱えるのかい?」
「ううん…。でも、そのうち絶対にパイロットになるんだ」
「アンタ…名前は?」
「あ、あの…マイケル。名前…マイケル。」
ネリが手袋を脱いで、手を差し出した。
「アタイは、ネリ」
「よ、よろしく…」
恐る恐る、ネリの手を握る。
「もう一人、連れがいたっけねぇ?」
「うん、世界一の武人と一緒にね。元々地球軍にいたんだけど、
地球に義は無いって、この艦で戦う事にしたんだ」
ネリがタバコに火をつける。
焦げたカラメルみたいな、煙の匂い。
「ふーん。アンタまだ、子供なのにねぇ。戦うなんて…さ」
マイケルは、バカにされたと思って不満そうな顔をした。
「じゃあ、ネリはどうしてこの艦で戦うの?」
二本目のタバコに、火を移す。
「息子が大人になった時、戦う必要の無い世界にするためさ。」
ネリがブーツの裏で火を消して、また手袋をはめた。
作業に戻る。

「アンタぁ…、格好いいからだとか、
憧れでパイロットになるんじゃないよ。
そういうヤツに限って早死にするんだ」
「お母さん…なんだ」
「息子もアンタも同じ、ここの連中はみな家族さ。
それと、アタイがここでタバコ吸ってたの、内緒だよ」
「何で?」
「艦内は禁煙なのさ。ほら、指きり!」
恐る恐る、それでもはにかみながら、マイケルが指を絡めた。
ネリが、マイケルの瞳を深く覗き込む。
「…死ぬんじゃないよ」
それから、ニカッと白い歯を見せて笑った。

「戦う必要のない世界…」
マイケルは、何度も呟いた。
そして、いつまでも希望号を眺めていた。


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