ミズキは、読んでいる本のページをめくった。
まだ踏んだ事の無い地、遠い昔の地球の物語。
何度も何度も読み返した本だった。
この時代にしては珍しい紙製のもので、
ミズキの母も祖母も、そのずっと前からも
大事に読み継がれてきたものだった。
1914年の戦争の話だ。
ある青年が、戦争を止めるために飛行機に乗って
両方の軍隊に宣伝ビラをまくページ。
何度も読むミズキには、いつも胸を痛ませるページだった。
そして青年を乗せた飛行機が墜落し、
重傷を負い最後にはスパイと間違えられて、
殺されてしまう。
その革命と平和を掲げて生きる青年の心に、
ミズキはいつも打ちひしがれていた。
今の歴史は間違っている、自分こそが本当の歴史を書くのだと
ミズキはいつもそう思っていた。
しかし、周囲にその事を話すと決まって失笑を受けるのだ。
そんな時はただ、この本を開いて
青年のまっすぐな姿を見つめるのだった。
頬杖を付いて、ページをぱらぱらとめくると
本の中の青年がまぶたに浮かぶ。
「あなたを苦しめるものは、何?」
― 僕の理念は無力に過ぎない。戦争と言うものの前では。
でも、暗闇の中で初めて人は輝く。
僕は活動を続けるよ、すばらしき世界のために。
君は…?
「強い者の都合で、間違った歴史が作られていくわ。
私は、正しい歴史を描いていくの」
― そう、それはすばらしい。革命だ。
「…でも、みんなが笑うの」
― 僕は、君を応援するさ。友よ。
「私もあなたを応援するわ」
それから本を閉じて、日記帳を開く。
ミズキの日課だった。
毎日見たもの、起きた事を事細かに記す。
それが、ミズキのたった一人での革命だった。
革命は密かに、黙々と続いていった。
そして、ある日―――。
― 何かあったのかい?
「今日、私の事を笑わない人がきたの」
― それはよかった。君は一人じゃなくなったんだ。
同士が出来たんだ。
「私は、私の革命を突き進みます」
―ああ、それがいい。僕も自分の信じた道を恐れずに、進もう。
ミズキは頬を赤らめて、本を閉じた。
また、いつものように日記帳を開く。
「今日は書くことが一杯だわ」
自分の夢を笑わなかった人。
それは紛れも無く、火星に舞い降りた新しい希望だった。
夜明けを告げる絢爛舞踏の登場。
それが今、彼女の手によって
新たな歴史となる1ページに記されたのである。
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