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第4回「ワールドタイムゲートと重力レンズ」
BALLSという勝手に増えていく工場が、資本主義を根本から破壊しかねないことを、多くの知類が思い至らないころ、2059年に、火星でビックイベントが起きた。

火星上空に、突如重力レンズが出現したのである。
局所的に大質量の“なにか”が火星と地球の間に出現し、空間を捻じ曲げ、光を火星に集めたのである。

40時間だけ出現したこのレンズは、火星の表面温度を最大で約100度高め、そして、その結果火星の地表の下で氷になっていた水が、一気に溶け出したのである。

にわかに大洋が発生した火星を見上げて、多くの人々がお祭り騒ぎに浮かれた。
たとえその日の生活に関係なくても、見上げれば水の星があるというのは、多くの知類の食事時のいい話題になった。
これをチャンスと火星にロケットを打ち上げようと、各国の宇宙開発関係者が考えたのは、当然であった。

そして、競って宇宙に知類を乗せた打ち上げがなされた。
目標は火星。その中でも最有力候補だったのが、中国、アメリカ、そしてBALLSによってそれまでの劣勢を挽回した日本である。
月面に基地を持つ日本は、この宇宙レースでもかなり優位な位置にあった。
地球−月までの距離は38万km、火星と地球間の距離は最接近時(2003年の次は2284年だ)およそ6,700万kmでそう聞くと全然たいしたことのないアドバンテージに聞こえるかも知れないが、地球重力からの脱出が実に大変なこの時代、38万kmの距離は2000万kmに匹敵する効果があったのである。

が、しかし。勝ったのはアメリカだった。
日本人には残念残念。そうそううまくはいかないものだ。
アニメやゲームの絢爛舞踏祭での火星特権階級をマーズワスプというが、彼らの祖先はアメリカ東部の出である。
この背景には、アメリカに「火星は俺達が開拓した」という強い意識があった点はいなめない。

そして、火星に到着した研究隊はおどろくべきデータを持ち帰り始めた。
どこの予想をはるかに上回って水が多かったのである。
その段階ですでに火星表面の90%を水が覆っていた。(最終的にはもっと増える。95%以上が水に覆われる)
せいぜい三分の一、悲観的な研究グループになると湖ぐらいと言われていただけに、この結果は多くを人間を仰天させ、ついでに研究本作家とSF作家にささやかな特需をもたらした。

そんな地球の騒ぎをよそにゆるやかに凍っていく火星の海を見ながら、ここを第2の地球にしようと思ったアメリカ人がそれなりにいたということは、特筆に値しよう。

一方、かつて存在した、重力レンズを調べてみようという動きもあった。
火星事件と比べれば大したことないが、学術的、技術的にはこちらのほうによほど価値があった。
こちらはヨーロッパ共同と、日本が参加した。
この頃既にBALLSは月面の多くを資源化しはじめており、数には相当余裕があった結果、日本は2正面作戦が出来たのである。
そして、公式にはなにも発見できなかった。少なくとも人類や多くの知類ではそうなった。

BALLSたちはここで発見した物のことを、長く秘密にし、ヨーロッパ共同のロケットを撃墜することもやっている。
百体ほどのBALLSは、ここで行方不明になり、後のMAKI誕生の原因となった。

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