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第13回「最低接触戦争(1)」
2150年頃を境に、ついにBALLSは20兆をはるかに越えるほどの数となっていた。
増えた数のBALLSは太陽系の外縁にその手というか、丸い身体を、伸ばし、そして植民地化して
いった。
人を含む知類は、BALLSの後を追って殖民していく図式があったことは、以前述べた。
最初の植民地である金星、火星に続いて木星系、ついで土星が、開発開始された。
BALLSでない知類が降り立つのは、BALLが開発開始されてからおおよそ20年から30年後になる。こうして、4半世紀に1個の感じで、太陽系の惑星と衛星は、次々と植民地化されていった。
2171年 知類は木星の衛星群、シスターズを植民地化する。
2192年 知類は土星の大衛星、タイタンを植民地化する。
2215年 知類は天王星を植民地化する。
天王星の外は、もう太陽系の終わり、最外縁である冥王星と海王星が見えている。
2250年までにはこれらも植民地になりうると当時の知類は考えていたし、一方で次はアルファ・ケンタウリだと思う気のはやい者も、大勢いた。
気が早いのはこの時代の人々の一般的風潮である。
誰も彼もが、この先の大事件などを考えてはいなかった。
運命の、2224年まで。
ここから先は、少々あやふやな記述になる、伝統が長い故に歴史好きの知類である人知類であっても、ここから先に起きる戦争の発端について、良く分からない。
2224年当時といえば誰もが地球の大事件パックスアジアと、アメリカヘゲモニーの争いに目がいっていたし、それに興味のない火星の人々の多くは、火星先住民と結婚して子育てや卵温めるのに躍起になっていた。
当時を知る一番の方法はやはり同時代の人間の証言をあつめることであろう。
ここでは後に地球大統領になった一人のアメリカ航空宇宙軍士官の証言を下に、歴史
の記述をしてみたい。
士官の名前を、ジョージ・タフトと言う。2191年生まれ。
ミドルネームがないのはこの頃の流行である。
その時……2224年では、彼は33歳である。
彼はアメリカ空軍のパイロットあがりの宇宙軍士官である。妻と、9歳の息子と7歳の娘、つまりは家族との距離が離れたせいで心が離れることを極度に心配しており、それゆえに宇宙軍を辞めてしまおうかと、当時考えていたことが、歴史家ミズキ・ミズヤがコピーした日記の記録から残っている。
頻繁に地球=家に帰るために生活苦しく、倹約を心がけているような、そんな士官である。ありていに言えば、さほど有能でも熱心でもない、士官であった。
彼の配置部署は、地球を見下ろす宇宙基地である。
その時彼が見たものは、BALLSが次々と外宇宙に飛んでいくという、現場であった。
後に最低接触戦争と呼ばれるそれの最初は、当時50兆とも言われるBALLSが、持ち場を離れ集団を組んで船団を建造し、続々と外宇宙に向かって流れていくこ とだった。
多くの知類は、口をあけて、口がなければ心のそれを開いて、最初の現場を見ることになる。
次々とBALLSが移動する現象は太陽系中のあちこちで見られ、多くの植民地建造などに影響が起きた。ボロ・システムの運行権は知類がにぎっていたが、推力を得て自分で進む宇宙船のほうはというと、その多くがBALLSにゆだねられていた。
多くの宇宙船が行き先を変更され、徴用され、資材とBALLSを乗せるだけ乗せて、外宇宙に移動を開始した。
その加速はすさまじく、半年先までその軌跡が、見えたという。
船の運航は狂いに狂い、ひどいところではスケジュールが百年ずれると表示されたところもあった。
影響がなかったのは火星を覆うワールドドームの建造、それのみである。
少佐になりたてのジョージ・タフトはこの怪現象の報告書作成に追われ、長男の誕生日に家に帰ること出来ず、もう絶対軍をやめてやると泣きながら思っていた。
BALLSがいまだかつてこんな動きをしたことはない。アメリカヘゲモニーもパックスアジアも、それを理由に未だ始まってない戦争を休戦しようかと話をしていた。

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